風はますます強く

「もはや云い合うだけは云いました。凡てはあなたの考えにまかせます。しかし衣川さん僕が今云ったことは忘れないで下さい」

 風はますます強く雪はいよいよ降りつのる中に、旧友は、かくして争い、かくして別れた。旧友を送ったあと、衣川柳太郎は、一人炉辺に坐してまんじりともしなかったのである。

 翌日は昨日にまさる大雪であった。午前四時頃になって漸く就眠した衣川柳太郎は、さまざまの夢幻におそわれつつひる頃までねてしまったのであった。 何となくものういまま彼は終日家にこもることにきめて、窓外の大雪をながめて居た。 清川はかわった、全く自分と考えがちがう。彼は不義の罪人をかばうことを正しいと信じて居るらしい。何が正義か、問題は実に簡単ではないか。不義の罪人をかばうことは清川がその罪人である場合にのみ、その気もちに稍同情は出来る。 こんな事を考えつつ彼は書斎で窓外の吹雪を眺めて居た。 けれど、けれど清川は俺の親友だ。彼に良心の無い筈はない。彼が来てくれた事が、既に彼の心の煩悶を表して居る。彼は今日は来るだろう。来てすべてを自分に告げるに違いない。 衣川柳太郎はこう考えて終日家に留ることにした。 けれども之はあてにならぬ予期だった。 たよりにならぬ空頼みだった。 其日もくれたけれども、清川は姿を見せなかった。

 夜のとばりがおりた時、彼は戸外の大吹雪のおそろしさを思った。たった一人で小田原にこの淋しい夜を送っているであろうところの妻、静枝の上をふと思いおこして手紙を書き出した。そうして夜おそく床についた。

— posted by id at 06:55 pm  

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